最近「以前に比べると、小学校の給食が明らかに少ない」という声をSNSでよく目にします。「おかわりがない」「子どもが毎日お腹を空かせて帰ってくる」といった投稿は珍しくありません。
SNSを見ると、この問題は小学校だけのイメージがありますが、実は保育園でも同様に起きています。どの現場でも量が足りないという課題が共通して浮き彫りになっているのです。
今回は、現役の保育園調理員として、小学校と保育園に共通する給食の問題について深掘りしていきます。
なぜ給食が昔より少なくなっているのか?

栄養基準が厳密で、“見た目の量”は基準外
給食は、国が定める栄養基準を必ず守って作られています。
- カロリー
- タンパク質
- 脂質
- カルシウム
- 野菜量
- 食物繊維
これらの基準が細かく決まっていて、栄養士さんはその枠の中で献立を組みます。そのため、献立は栄養価>見た目・量の優先順位になります。もちろん、栄養士さんは栄養価をクリアしつつ他とのバランスをとりますが、使う食材によってはボリュームが少なくなる場合もあります。
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おかわりは義務ではない
給食の醍醐味はおかわりができる点ですが、おかわりは学校や保育園の配慮によって生まれるため、おかわりがなくても問題ありません。給食は満腹になるまで食べられるのではなく、栄養価を摂るために食べるものです。
- 栄養価は十分
- でも見た目の量は少ない
という献立は普通にあり得ますし、何の問題もありません。
献立内容によっては、どうしても量が少なく見えてしまい、保護者にとっては「え、これだけ?」と疑問を感じてしまいます。
小学校の給食量が少ない原因

給食費が長年ほとんど上がっていない
物価高騰によって多くの商品が値上がりしているため、多くの保護者は給食費も上がっていると誤解しがちですが、実は給食費は10年以上ほぼ据え置きのまま という自治体が大半です。
今の給食は昔の物価を前提に作られた制度を、令和になってもまだ使っています。
昔よりも食材の価格は上がり、扱う食材の種類も増え、衛生基準やアレルギー対応も厳しくなったにもかかわらず、制度=給食費は当時のまま。この制度の古さが、給食の量を圧迫する大きな要因のひとつです。
給食は1食約300円という低予算でやりくりしている

多くの学校や保育園では、給食の1食は約300円前後で作られています。この限られた予算で、「食材すべて」を揃えなければなりません。
- 主菜(肉・魚)
- 副菜
- ごはんorパン
- 汁物
- 牛乳
- デザート(果物など)
を組み立てる必要がありますが、このご時世ワンコインランチを探すことも難しいのに、300円ならおにぎり2個でもぎりぎりの金額です。
食材の物価高騰が追い打ちをかけている
ここ数年の物価上昇は、給食現場にとって大きな負担です。
家庭でも「肉が高い」「野菜が高い」「牛乳も上がった」など、様々な食材が高騰していますが、給食は家庭以上に影響を受けます。
なぜなら、学校給食は何百人単位の大量調理で成り立っているためです。
実際、2024〜2025年は玉ねぎ・にんじん・じゃがいも・豚肉など、ほぼすべての食材で値段が上がっています。大量調理では“1個10円の値上げ”が月に数万円の負担になるため、量を減らさざるを得ない状況が続いています。
この結果、予算を超えないように量を抑えるしかないということが増えています。
先ほど書いた、おかわりが少ないという声が多いのは、この物価高騰が大きな理由のひとつです。
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給食現場の課題

給食の問題の背景には、物価高騰以外にも現場のリアルな苦労もがあります。
栄養価だけでなく旬やイベントも取り入れている
栄養価優先で献立を作る必要がありますが、それ以外にも課題があります。旬の食材の使用や行事食などのイベント、子どもが食べやすい大きさにカットなどを同時にする必要があります。
いろんな観点を踏まえた上で、さらに限られた給食費の中で量の調整を行うことは、栄養士の負担が大きいのが現状です。
調理員の人手不足
給食現場は慢性的な人手不足です。保育士や先生が足りないという話はよく聞きますが、実は栄養士や調理員の人手は同じくらいむしろ、それ以上足りないのが現状です。また、人件費もぎりぎりに抑えるため、100人ほどの給食であれば調理員が2人~3人で作ることも珍しくありません。
給食は「提供時間が決まっている」「調理後2時間以内に提供」など、厳しい衛生ルールがあるため、前日の仕込みや早めに作っておくこともできません。
失敗が許されない中、衛生面や時間にも気を遣いながらも、クオリティを維持することは、簡単ではないことです。
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安全対策・衛生管理の徹底
給食で一番大切なことは、栄養価を守るやおいしいものを作るではなく、安心安全な給食を提供することです。
そのため、食中毒や異物混入などの感染症対策や衛生基準が年々厳しくなっており、現場の負担は増え続けています。
調理に入る前には必ず、
- 調理前の衛生チェックの確認
- 手洗いの徹底や手袋の着用
- 食材の中心温度の記録
など、細かな記録が必要です。調理以外にも事務作業も合間にする必要があり、人手不足の現場をさらに圧迫しています。
さらに、万が一「食材の品質不良」「異物混入疑い」などの事故が発生すると、小学校でも保育園でも、その食材が一切使えなくなります。
例として数年前に「ぶどうをのどに詰まらせた事故」のニュースが報道された際、ぶどうだけでなく、同じ形状であるミニトマトなども、半分にカットするなど、ひと手間かかる作業が必須になりました。
大量調理では小さなトラブルでも影響が大きく、代替メニューへ変更するために急な工程追加や再調理が必要になることもあります。
このようなトラブル対応は、安全確保のために不可欠ですが、現場には大きなプレッシャーと負担がかかります。
保育園でも同じ問題が起きている

給食の量が足りない問題は、小学校だけではありません。
保育園でも、
- 「おかわりがない」
- 「年長さんは量が足りない」
- 「午後のおやつまで待てない」
という声が増えています。
保育園の場合は、年齢に合わせた食事量を基準にしているものの、園の規模や食材費の予算によって、給食の量に大きく差が出ます。
さらに保育園では、小学校にはあまりないアレルギー対応や離乳食など、個別対応が必要な調理があります。そのため、離乳食中期・後期・完了食・普通食・アレルギー食など、1度に5パターンの食事形態を準備する日も珍しくありません。
現場では、
- 調理工程が複雑になり、対応が追い付かない
- 量を増やしたくても予算内に収めることができない
- 複数人のアレルギー対応のため、負担が増えるとミスにつながりかねない
といった現場の声があります。
結論としては、保育園でも小学校でも、
- 予算
- 人員
- 物価高
- 栄養基準
という複数の要因が、量を増やしたくても増やせない構造を生んでいます。
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保護者が感じる不安と、現場とのギャップ

家庭での食事量と給食の写真を見比べると「明らかに少ない」と感じる保護者は少なくありません。特に、食べ盛りの時期に子どもが「お腹すいた」と言って帰ってくると、「なぜこんなに量が少ないの?」と不安になるのも自然なことです。
しかし現場では、見た目の量だけでなく、栄養価を満たすことを最優先にしつつ、予算内でできるだけ満足感のある献立に調整する努力が続けられています。
例えば、かさを増す食材を工夫して使ったり、なるべく満腹感が得られる調理法に変えたり、小さな改善を重ねています。
保護者が感じる不安と、現場が日々行っている努力。その間にあるギャップを理解することが、この問題を正しく考える第一歩になります。
給食の問題はどう改善できる?

この問題は、すぐに解決できるものではありません。しかし、すでに各地で始まっている改善の取り組みや、現実的に進められる方向性がありますので、具体例を紹介します。
子どもが給食だけでは足りないときは、朝ごはんをしっかりと
給食の量や内容をすぐに改善するのは難しいため、家庭でできる最も効果的な方法が「朝ごはんを充実させること」です。特にごはんはパンより腹持ちが良く、午前中のエネルギー切れを防いでくれます。
朝から一汁三菜を用意するのは大変なので、おにぎりだけでも大丈夫です。 汁物、卵料理など、たんぱく質や温かい料理を少し加えるとさらに満足感がアップします。
給食だけに頼らず、朝の食事でしっかりエネルギーを補うことが、子どもの1日の学びと健康を支える対策になります。
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自治体の給食費補助
給食費の無償化、または一部補助が進む自治体も増えています。予算が増えれば、量と質を改善しやすくなり、現場の裁量も広がります。
食品ロス削減を給食に活用
規格外野菜や地場食材と連携する自治体も登場しています。安心・安全を保ちながら、コストを抑えて量を確保できる取り組みです。
食品ロス削減と学校給食の課題を同時に解決できる、サステナブルなアプローチとして注目されています。
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農家や企業との直接連携
地域の農家や企業と学校が直接つながることで、質の良い食材を安定して確保できるケースもあります。地域の活性化にもつながり、多くのステークホルダーを巻き込むことで、地域全体の食育・食環境の改善へと広がる可能性があります。
保護者との情報共有
献立の意図や栄養価、量の基準を丁寧に説明することで、保護者の不安を軽減することができます。
「見た目ではなく栄養価を重視している」という考え方や、現場も子どものことを考えていることを理解してもらうことで、保護者と現場と子どもの声の3つの観点から解決の糸口にもつながります。
まとめ

小学校や保育園で「給食が少ない」と言われる背景には、物価高や予算不足など複雑な事情があります。
現場では、栄養価を守りながら、限られた予算と食材でやりくりしており、1日でも多く満足できるように努力しています。
行政・学校・保育園・保護者が情報を共有しながら、小さな改善を積み重ねることで、より良い給食のあり方に近づいていけるはずです。
子どもたちが「おいしかった」「お腹いっぱい」と笑顔で帰ってこれる日が増えるよう、社会全体で支えていきましょう。
今回もご閲覧ありがとう。
よしみけ(´▽`)

